01 展覧会について
1920年代、フランスの首都パリをはじめとした欧米の都市では、第一次世界大戦からの復興によって工業化が進み、「機械時代」(マシン・エイジ)と呼ばれる華やかでダイナミックな時代を迎えました。
本展覧会は、1920ー1930年代のパリを中心に、ヨーロッパやアメリカ、日本における機械と人間との関係をめぐる様相を紹介します。特にパリ現代産業装飾芸術国際博覧会(アール・デコ博)が開催された1925年は、変容する価値観の分水嶺となり、工業生産品と調和する幾何学的な「アール・デコ」様式の流行が絶頂を迎えました。
日本では1923年(大正12)に起きた関東大震災以降、東京を中心に急速に「モダン」な都市へと再構築が進むなど、世界は戦間期における繁栄と閉塞を経験し、機械や合理性をめぐる人々の価値観が変化していきました。
コンピューターやインターネットが高度に発達し、AI(人工知能)が人々の生活を大きく変えようとする現代において、本展覧会は約100年前の機械と人間との様々な関係性を問いかけます。
02 みどころ
1920年代には、自動車や航空機という人間の力を大きく凌駕する機械が急速に普及します。レジェやブランクーシ、そしてシュルレアリスムの作家など、この時代のアーティストによる機械への賛美や反発を、AI(人工 知 能 )が 人 類の知 能を超える「シンギュラリティ」( 技 術 的 特 異 点 )が 到 来しようとする現 代と重ね合わせて見なおします。
フェルナン・レジェ 《鏡を持つ女性》 1920年、ポーラ美術館
1920年代を代表する装飾スタイル「アール・デコ」は、異国趣味や古典回帰、現代主義(モダニズム)など、多くの価値観が混在して生み出されました。この展覧会では多面的なアール・デコのなかでも「モダン」(現代的)な側面に注目し、産業技術や都市の発達という視点から捉えます。それまで余剰や付随とみなされていた装飾は、機能や実用性を感じさせる幾何学的な造形として流行し、この時代の建築や家具、服飾の分野に広がりました。
ルネ・ラリック《香水瓶「ジュ・ルヴィアン」》(ウォルト社)1929年12月2日原型制作、ポーラ美術館/マルク・ラリック《香水瓶「ジュ・ルヴィアン」》(ウォルト社)1952年以降、ポーラ美術館
日本におけるグラフィックデザイナーの先駆けとなった杉浦非水による、アール・デコ様式の影響を受けたポスターや雑誌の表紙を紹介するとともに、レジェに感化された古賀春江や、機械美に魅せられた河辺昌久ら異色の前衛芸術家の作品により、大正末期から昭和初期にかけての日本のモダニズムを検証します。
杉浦非水《東洋唯一の地下鉄道 上野浅草間開通》 1927年(昭和2)、愛媛県美術館[展示期間:2023年12月16日ー2024年3月1日
03 展覧会構成
1918年に第一次世界大戦が終結すると、機械文明は生活の利便性を高めるために大きく発展します。特に自動車や航空機が普及し、機械時代(マシン・エイジ)と呼ばれる時代の象徴となりました。芸術家やデザイナーも機械の進化が理想的な新しい時代をもたらすと信じ、機械をモティーフにした作品を制作しています。
(左から)《ウォーム歯車機構》 年代不詳、東京大学総合研究博物館/コンスタンティン・ブランクーシ《空間の鳥》1926年(1982年鋳造)、滋賀県立美術館/《ブガッティタイプ52(ベイビー)》 1920年代後半-1930年代前半、トヨタ博物館
1925年にパリ現代産業装飾芸術国際博覧会(通称アール・デコ博)が開催され、この時代の流行が一堂に会しました。ガラス工芸作家ルネ・ラリックは、自動車を飾るカーマスコットや、幾何学的な建築空間に合わせた室内装飾、香水瓶などのデザインを手掛け、カッサンドルは、単純化した造形と大胆なグラデーションを活かして豪華客船や鉄道のポスターを制作しています。作家たちは、機械や工業製品の美を称揚し、未来を感じさせるイメージを作り出したのです。
(左から)ロベール・ボンフィス 《ポスター「PARISー1925 アール・デコ博」》 1925年、京都工芸繊維大学美術工芸資料館[AN.2694ー43]/A.M.カッサンドル《ポスター「ノルマンディー号」》1935年、京都工芸繊維大学美術工芸資料館[AN.4739]©www.cassandre.fr APPROVAL by theESTATE OF A.M.CASSANDRE / JASPAR 2023 B0685
機械の発達は、近代化に抵抗する動きも引き起こしました。1910年代には、欧米の各都市で芸術のシステムに異を唱える芸術運動「ダダ」が起こり、1924年にはアンドレ・ブルトンが「シュルレアリスム宣言」を発表します。彼は理性ではたどり着けない「超現実」を芸術によって探究するシュルレアリスムを創始し、それは1920年代後半から大きな芸術運動となっていきました。シュルレアリスムは機械時代を支える合理主義を批判的に捉え、目的を持つ機械とも、造形的な美しさを探究する彫刻とも異なる、「オブジェ」という新たな概念の立体作品を生み出しました。
(左から)ジョルジョ・デ・キリコ《ヘクトールとアンドロマケー》 1930年頃、ポーラ美術館 ©SIAE,Roma & JASPAR, Tokyo, 2023 B0685/マン・レイ《破壊されないオブジェ》1923 /1975年、東京富士美術館 ©東京富士美術館イメージアーカイブ/DNPartcom ©MAN RAY 2015 TRUST / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2023 B0691
日本では1923年(大正12)に発生した関東大震災からの復興により、急速に近代化が推し進められました。日本のモダンデザインのパイオニアである杉浦非水は、1922年(大正11)からのヨーロッパ遊学を経てアール・デコ様式を昇華させ、明快で力強いデザインによってビルや地下鉄が彩るモダン都市・東京を表現しました。また古賀春江や河辺昌久といった前衛的な芸術家が活躍したのもこの時代です。機械的なモティーフを採り入れ、新しい時代の高揚感と不安とが交錯するような絵画作品が多数生み出されました。
古賀春江《現実線を切る主智的表情》1931年(昭和6)、株式会社西日本新聞社(福岡市美術館寄託)
本展覧会では、現代において機械文明やロボット、デジタル時代の視覚性をテーマに制作を行うアーティストを紹介し、現代の「モダン・タイムス」を考えます。パリ在住の作家ムニール・ファトゥミによる、自身のルーツであるアラブ世界の近代化をテーマとした映像作品、「ポスト・ヒューマン」の世界を思わせるロボットのような人物像を制作する空山基による近未来的な立体作品、そしてインターネットを使ったNFT作品を手掛けるラファエル・ローゼンダールによるデジタルとフィジカル(物理的)との境界線を問う高さ3メートルにおよぶレンチキュラー作品を展示します。
(左から)空山基《Untitled_Sexy Robot type II floating》2022年、Courtesy of NANZUKA/ラファエル・ローゼンダール「Into Time」シリーズ、展示風景:「Screen Time」Takuro Someya Contemporary Art、2022年、Photo:Shu Nakagawa ©Rafaël ROZENDAAL
ムニール・ファトゥミ《モダン・タイムス、ある機械の歴史》2010年、Courtesy of the artist and Art Front Gallery, Tokyo Photo: ©mounir fatmi
04 関連プログラム
3月23日(土)河本真理(日本女子大学教授) 講演会
講師:河本 真理(日本女子大学国際文化学部教授)
日時:2024年3月23日(土)14:00-15:30(13:50に講堂にお集まりください)
定員:先着100名(当日入館券が必要です)
詳細および今後のプログラムについては、順次お知らせいたします。
05 「ラ・メゾン・デュ・ショコラ」とコラボレーション!
創業以来変わることなく、手仕事による製造を守り続けるパリのブランド「ラ・メゾン・デュ・ショコラ」と「モダン・タイムス・イン・パリ 1925」展がコラボレーション!
会期中、カフェ チューン(B1F)にて「ラ・メゾン・デュ・ショコラ」のスイーツプレートをお召し上がりいただけます。
※数量限定
06 展覧会概要
モダン・タイムス・イン・パリ 1925-機械時代のアートとデザイン
Modern Times in Paris 1925― Art and Design in the Machine Age
- 主催
公益財団法人ポーラ美術振興財団 ポーラ美術館
- 後援
フランス大使館/アンスティチュ・フランセ
- 会期
2023年12月16日(土)―2024年5月19日(日)
- 会場
ポーラ美術館 展示室1、2