12月2日(月)~13日(金)まで臨時休館いたします
シャガールの故郷ヴィテブスクは活気ある港町であったが、彼はこの町の素朴な風景を愛情と懐かしさを込めて繰り返し描いた。本作品では故郷の上を抱き合う一組の恋人たちが浮遊している。この恋人たちは、シャガール自身と彼の最初の妻ベラである。シャガールとベラの出会いは1909年の秋、シャガールがペテルブルクからヴィテブスクに帰郷したときであるといわれている。二人は1915年7月、シャガール28歳、ベラ20歳のときに結婚した。以後、アメリカ滞在中の1944年にベラが突然亡くなるまでの30年のあいだ、二人の幸福な恋愛は続いた。 この《町の上で、ヴィテブスク》は、現在、モスクワの国立トレチャコフ美術館が所蔵する《町の上で》(1914-1918年)の習作、またはヴァリアント(異作)と思われる。シャガールは結婚直後に、幸福な二人の姿を描いた《誕生日》(1915年、ニューヨーク近代美術館)、《散歩》(1917-1918年、国立ロシア美術館、サンクト=ペテルブルク)、前出の《町の上で》を制作しているが、妻のベラは後年の回想録のなかで、《誕生日》と《町の上で》は連続しており、シャガールの誕生日に野花の花束を持って彼の部屋を訪ねた際、高揚した気分の二人が宙を漂い出すという幻想的な場面を記している。 分割された色面からなる浮遊する恋人たちと輪郭線で囲まれたヴィテブスクの家並、連なった木の柵などにはキュビスムの影響を感じさせる幾何学的な形態表現がみられるが、画面は結婚直後のシャガールとベラの喜びと幸福感、穏やかで優しい情感に満たされている。