12月2日(月)~13日(金)まで臨時休館いたします
ドガは、1870年頃に制作された《オペラ座のオーケストラ》(オルセー美術館)ではじめて踊り子を描いたとされている。劇場でのバレエ鑑賞は当時のブルジョワ紳士たちの代表的な娯楽のひとつであり、ブルジョワ階級に生まれたドガにとっても日常的なことであった。ドガは人体表現の探究、そして彼が好んで描いた馬と同様に動きの表現を探究するための画題として踊り子を繰り返し描き続け、「踊り子の画家ドガ」というイメージを決定づけるまでにいたったのだった。 本作品では、楽屋の踊り子たちのなにげない一瞬の光景が描かれている。このような踊り子たちの姿は、舞台裏にも出入りしていたドガだからこそ描けたものであるといえるだろう。彼女たちは長椅子に座り込み、くるぶしを掴んだポーズで描かれている。本作品には同様の構図をもつ8点のヴァリアント(異作)が存在するが、それらをみると二人の踊り子がそれぞれ自分の関心事に夢中になっているポーズから、腕の位置を変え、画面左の踊り子の頭部を右の踊り子のほうに向けることによって、二人が会話を交わしているような場面に構図を変化させていったことがうかがわれる。衣装から突き出た踊り子たちの手や脚の配置は計算し尽くされており、すばらしい構図を形作りながらも画面にぴったりと収まっている。 1871年の普仏戦争従軍の後、目を病み、視力の衰えに悩まされていたドガは、あざやかな色彩表現とデッサンが同時にでき、また容易に加筆や修正ができるパステルを好んで用いた。とりわけ1892年頃、視力が急速に衰えてからはパステルや木炭を用いて大胆な色彩と強い輪郭線による作品を数多く制作している。本作品でものびやかな踊り子たちの腕や脚は黒い力強い線で描かれ、踊り子のチュチュは明るい黄色の色面と化し、抽象的な背景に溶け込んでいる。