01 展覧会について
印象派を代表する巨匠、クロード・モネ(1840-1926)。ポーラ美術館が収蔵する19点の油彩画は、セーヌ河の水辺、サン=ラザール駅や行楽地、海辺などを描いた風景や、ロンドンやヴェネツィアの連作、そして「睡蓮」連作にいたるまで、モネの初期から晩年の重要な作品を網羅するアジア最大のコレクションです。本展では、モネの没後100年、そして当館の開館25周年を記念し、この奇跡のコレクションをすべて展観します。
同時代を生きた画家ポール・セザンヌが驚嘆した「目」を持っていたモネは、それまでの美術の伝統とは異なる、ラディカルな美のヴィジョンを提示した先覚者でもありました。100年後の今を生きる私たちの眼前で、ますます輝きを増すモネの絵画―その捉えきれない魅力の秘密は、いったいどこにあるのでしょうか。
本展では、時代を映し出す最も鋭敏な「目」 ― 国内外18組の現代作家たちのまなざしを通じて、「みる」という、私たちが世界に触れるためのはじまりの行為をあらためて問い直しながら、モネの新しい地平を拓きます。
02 出展作家
クロード・モネ、エミール・ガレ、ジョルジュ・スーラ、ルーカス・アルーダ、アローラ&カルサディーラ、フェリックス・ゴンザレス=トレス、ノエミ・グダル、ロニ・ホーン、ピエール・ユイグ、今坂庸二朗、アマル・カンワル、カプワニ・キワンガ、ナイル・ケティング、ダニエル・スティーグマン・マングラネ、三嶋りつ惠、中谷芙二子、大森日向子、タオ・グエン・ファン、スーザン・フィリップス、ヴォルフガング・ティルマンス、スーメイ・ツェ ほか
アローラ&カルサディーラ《Graft》2021年、《Penumbra》2020年、展示風景:「Antille」
ギャラリー・シャンタル・クルーセル、パリ、2022年
撮影:Martin Argyroglo
03 みどころ
ポーラ美術館が誇る19点のモネ・コレクションは、日本・アジアでも随一の質と量を誇ります。1872年の写実的な筆致による作品から、光と色彩と対象物が溶け合う1908年の作品まで、モネの画業の変遷を一望できる奇跡のコレクションを一挙公開します。移りゆく自然の瞬きをとらえたモネの作品群を、箱根の豊かな森の中でじっくりとご堪能ください。
本展では、モネの絵画にみられる革新的な表現や主題、制作背景と響き合う現代のアート作品を、従来の美術史的な比較ではなく、創造的な対話として提示します。時代も手法もまったく異なる作品が出あうことで、モネの絵画はその見え方を変え、私たちの「目」もまた更新されるでしょう。革新的な「目」をもって絵画のあらたな時代を拓いたモネと、現代の作家たちの「目」が交錯する空間で、モネ作品のあたらしい鑑賞体験をお届けします。
ポーラ美術館は2015年よりコレクションの拡充を開始しました。近年は、国内外を問わず国際的に活躍する現代作家の多様な作品を積極的に収集しています。本展では、フェリックス・ゴンザレス=トレスのキャンディを用いたインスタレーション作品、ロニ・ホーンの写真とテキストからなる作品、スーメイ・ツェによる大型のコミッション作品など、モネの絵画と共鳴する新収蔵作品を初公開します。
ポーラ美術館は2015年よりコレクションの拡充を開始しました。近年は、国内外を問わず国際的に活躍する現代作家の多様な作品を積極的に収集しています。本展では、フェリックス・ゴンザレス=トレスのキャンディを用いたインスタレーション作品、ロニ・ホーンの写真とテキストからなる作品、スーメイ・ツェによる大型のコミッション作品など、モネの絵画と共鳴する新収蔵作品を初公開します。
クロード・モネ《国会議事堂、バラ色のシンフォニー》
1900年、ポーラ美術館
中谷芙二子《雨月物語-懸崖の滝》霧の滝 #47670、2008年、
展示風景:「横浜トリエンナーレ 2008」2008年、撮影:中谷芙二子
04 展示作品例
クロード・モネ《睡蓮の池》
1899年、ポーラ美術館
ノエミ・グダル、展示風景:「And yet it still moves」エーデル・アサンティ、ロンドン、2025年
撮影:Tom Carter ©Noémie Goudal Courtesy of the artist and Edel Assanti
《睡蓮の池》の舞台であるジヴェルニーの庭は、実は人工の庭です。自身の手でつくり上げたこの理想の庭を題材として、モネは光や水面の反映、自然の変化を絵画に描き出しました。
フランス人作家ノエミ・グダルも、書割のような錯視的な風景を創り出し、それを写真や映像として記録することで、人工の風景を作品化してきました。最新作である「デルタ」シリーズでは、古植物学者とともに3億年前の石炭紀の失われた植生をジオラマのように再現し、ありえないはずの太古の風景を私たちの目の前に提示します。
両者はともに、人工的に整えられた環境を絵画/写真・映像に転換していますが、モネは自然美の再構築へと向かい、グダルは風景の虚実の境界や知覚の不確かさを問い直しています。
クロード・モネ《セーヌ河の日没、冬》
1880年、ポーラ美術館
フェリックス・ゴンザレス=トレス《「無題」(マルセル・ブリアンの肖像)》
1992年、ポーラ美術館
《セーヌ河の日没、冬》は、厳冬のヴェトゥイユで解氷するセーヌ河を描いた作品です。当時モネは最愛の妻カミーユを失い深い悲しみに沈んでいました。夕陽が淡く射す冬の風景は、喪失の感情と重なる静謐な時間を映し出しています。
フェリックス・ゴンザレス=トレスは、愛する人の命や身体を、キャンディや電球といった日常的な素材を用いて表しています。無数のキャンディの総重量は、亡くなった恋人や家族、身近な人々の体重などに等しく、鑑賞者はそれを持ち帰ることもできます。
本展では、ゴンザレス=トレスの青いキャンディを、セーヌ河を流れる氷塊に、電球を用いた作品を沈む夕陽に見立て、モネの絵画とともに展示します。両者は異なる手法ながら愛する人の不在を見つめ、その不在を作品として結晶化しています。
クロード・モネ《花咲く堤、アルジャントゥイユ》
1877年、ポーラ美術館
タオ・グエン・ファン《Becoming Alluvium》
2019年、Produced by the Han Nefkens Foundation Courtesy of the artist
《花咲く堤、アルジャントゥイユ》は、急速に産業化しセーヌ河の汚染が進んだパリ近郊のアルジャントゥイユにおいて、川辺の花咲く自然と工場の煙など近代化した風景を対比的に描いた作品です。
一方、ベトナムのホーチミンを拠点に活動するタオ・グエン・ファンは、植民地主義の遺産、工業化、資源争奪による生態系の破壊など、祖国の複雑な歴史と移ろいゆく変化を、詩的な表現によって浮かび上がらせてきました。2018年のメコン河支流のダム決壊事故を題材とした映像作品では、人間と動植物の転生を通じて、人間の欲望がもたらす破滅と、悠久の自然の時間における回帰を、史実と寓話を交えながら描き出しています。
両者の作品は、自然と文明の衝突、そして人間による環境への深刻な影響を可視化しています。モネはこの絵画を描いた翌年、産業化の波から逃れるようにヴェトゥイユへと移り住むことになります。
スーメイ・ツェ《Gewisse Rahmenbedingungen 3 (Altes Museum, Villa Farnesina, Villa Adriana)》(部分)
2015-2017年 ©sumeitse
クロード・モネ《ルーアン大聖堂》
1892年、ポーラ美術館
球体に映し出された壮麗な風景が反転し、ジャグラーの滑らかな手さばきの中で、水晶が魔法のようにすべり回ります。スーメイ・ツェの映像作品《ある枠組みの条件 3》の舞台は、古代ローマの広大な別荘、ルネサンス期のフレスコ画で覆われたヴィラ、新古典主義を代表する建築など。強い歴史の枠組みを持つ主題を扱うことで、場所の歴史やそこに根付いたナラティヴを再訪・再考する作品です。反転した像は、人間の網膜や、写真機の始源であるカメラ・オブスキュラを想起させ、何者かの手の上で回り続けるガラスのオーブによって、私たちの視覚が絶えず組み替えられてゆくようです。
スーメイ・ツェは、本展のためにこのシリーズの最新作を制作します。モティーフの候補となるのはモネが愛し、見つめた場所 ― サン=ラザール駅、エトルタの海、ルーアン大聖堂、ジヴェルニーの庭、ボルディゲーラなど…。
撮影地は、現在選定中!どのようなモティーフがお披露目となるか、どうぞお楽しみに。
05 ポーラ美術館のモネ・コレクション
ポーラ美術館のコレクションは、ポーラ創業家二代目の鈴木常司(1930-2000)が1950年代末から収集してきた西洋・日本の絵画、工芸、彫刻、版画、化粧道具等を基盤として形成されました。
19世紀から20世紀前半の絵画、とくにフランスの印象派絵画は、コレクションの中心を成しています。
なかでも19点を数えるモネの絵画はアジア最大の規模を誇り、光と大気の変化を追い続けたモネの、1870年代から1900年代にいたる画業の展開をたどることができる点が大きな特徴です。
クロード・モネ《睡蓮》
1907年、ポーラ美術館
06 関連プログラム
詳細が決まり次第、お知らせいたします。
07 展覧会概要
モネ没後100年・開館25周年記念 あたらしい目 ― モネと21世紀のアート
- 会期
2026年6月17日(水)- 2027年4月7日(水) 会期中無休[12月1日(火)は休館]
- 会場
ポーラ美術館 展示室1、2、4、アトリウム ギャラリー、ロビー、森の遊歩道
- 主催
公益財団法人ポーラ美術振興財団 ポーラ美術館
- 企画
岩﨑余帆子(ポーラ美術館学芸課長)、鈴木幸太(ポーラ美術館主任学芸員)