12月2日(月)~13日(金)まで臨時休館いたします
ルソーはかつてパリ市を囲んでいた外壁の門に立ち、税関吏として入税徴収の任務に就くほか、セーヌ河を往来する川船の取り締まりにあたっていた。セーヌ河岸の風景は、彼が日常的に眺めていた光景であり、生活の場そのものであった。
シャラントン=ル=ポンは、パリ東部のセーヌ河とヴァンセンヌの森に囲まれた緑豊かな郊外の町である。技術の進歩とともに、交通の要所である町はずれのこのような河岸では、エッフェル塔の建設を機に石造りの橋から鉄製の橋へと次々に架け替えられた。また、同地域のイヴリ河岸の上空には、宙を舞う気球や飛行機が見られ、最先端の飛行技術を競う様子はルソーにとって格好の画題であった。
本作品にも近代化の波が描きとめられている。両岸のあいだには電線がひかれ、美しい細い欄干を戴く鉄製の橋が架かり、地平線には工場と家々がひしめき合い、拡大する都市のエネルギーが満ちあふれているようである。河岸にひとりたたずむ人物が見つめるのは、のどかな風景に表れた新世紀の到来なのである。
(『アンリ・ルソー:パリの空の下で』図録、2010年)