アザミ文花器

  • 作家名 エミール・ガレ
  • 制作年 1884年頃
  • 技法・素材
  • サイズ 高40.4 径21.6 cm
フランス北東部のロレーヌ地方は18世紀まではロレーヌ公が統治する独立国家であった。恵まれた交通上の位置と豊かな資源の故に、フランス、ドイツ、オーストリア各国が領有権をめぐって争った歴史がある。15世紀には隣国ブルターニュのシャルル突進公によって一時占領されたが、侵略者を打ち破ったルネ2世の戦功と、その紋章であったアザミは格別の思いを持って人々に記憶された。強敵に断固として立ち向かった若き君主の紋章は、やがて市章に選ばれ今日にいたっている。  普仏戦争(1870-1871年、エミール・ガレも志願兵として参戦)に敗北したフランスは、アルザス全域とロレーヌ北東部をドイツに割譲する。昔から帰属をめぐって紛争が絶えなかったとはいえ、普仏戦争の結末はロレーヌの人々に忘れがたい屈辱を与え、ナンシーで生まれたガラス芸術にも影を投げかけることになる。アザミは「それに触れれば刺される」の格言によって、ロレーヌの自立を象徴する花であり、ガレの作品にもその荒々しい表情を伴って登場してくる。(『名作選』 2007)