ヘクトールとアンドロマケー

作家名
ジョルジョ・デ・キリコ
制作年
1930年頃
技法・素材
油彩/カンヴァス
サイズ
92.2 x 73.0 cm

ジョルジョ・デ・キリコ 《ヘクトールとアンドロマケー》 1930年頃

作品解説

ギリシアで生まれたイタリア人、デ・キリコはアテネの美術学校に通い、17歳の時に移住先のミュンヘンでアカデミーに学んだ。象徴派の画家ベックリンとクリンガー、哲学者のニーチェとショーペンハウエルの思想に影響を受けた画家はしだいに神秘的な表現へと傾倒していく。デ・キリコの、日常の深層に潜む神秘を暗示する絵画は、1911年にパリで出会った詩人のアポリネールが「形而上的」と評したことにより、「形而上的絵画」と呼ばれるようになった。また、事物を奇妙な組み合わせで描く「デペイズマン」と呼ばれる方法を用い、無意識の世界を探究するシュルレアリスムの先駆として、マグリット、デルヴォー、ダリに多大な影響を与えた。 光を浴びた城壁と、黒い影のなかの壁がドラマティックに対峙するあいだに、三角定規や細い支柱が組み合わされた2体のマネキンが頬を寄せている。その擬人化されたオブジェの集積は、ホメロスによるギリシアの叙事詩『イリアス』に登場するトロイアの王ヘクトールと王妃アンドロマケーである。同じ主題を描いたデ・キリコのデッサンと比べると、肩が張った左のマネキンがヘクトールを、右がアンドロマケーを表わしていることがわかる。死が待つ戦場へ出征する夫とその妻は、まさに今生の別れにあるのだが、この不可解なオブジェの姿は、その物語を知らずとも緊張のなかに圧倒的な存在感で迫ってくる。 古代ギリシアの悲劇を、架空の都市を舞台に演出するデ・キリコの手法は、ヨーロッパ美術の伝統と前衛とのかかわりにあらたな展開を示唆した。デ・キリコは1917年にイタリアのフェラーラで「ヘクトールとアンドロマケー」のシリーズを着想して以来、長い年月をかけてこの主題に取り組み、絵画だけでなく彫刻も制作している。

ポーラ美術館の収蔵するジョルジョ・デ・キリコのコレクション