ムーラン・ダルフォール

作家名
アンリ・ルソー
制作年
1895年頃
技法・素材
油彩/カンヴァス
サイズ
37.8 x 45.5 cm

アンリ・ルソー 《ムーラン・ダルフォール》 1895年頃

作品解説

画面中央に据えられた建物の壁の文字「ムーラン・ダルフォール」(アルフォールの水車)から、パリ市の南西にある、メゾン=アルフォール市の一角が描かれていることがわかる。セーヌ河にマルヌ河が合流するこの地区は、河の流れを活用した水車の製粉所が点在する緑豊かな地域であった。本作品が制作された頃、この土地の市長は、「別荘、野菜畑、工場、そして首都よりも広い住居と新鮮な空気を求めてこの町にやってきた鉄道員、御者、川舟の船員、パリの労働者の小さな家々がある」と、19世紀末にわかに賑わいを見せ始めた典型的な郊外の町を紹介している。 ルソーはこの街に足を運び、本作品に先立つ習作《ムーラン・ダルフォール》(1895年頃、フランツ・リーギルド・コレクション蔵)を現地で手がけたのち、アトリエで本作品に着手したようだ。習作にある「ムーラン・ダルフォール」の建物、右手の河岸に係留された洗濯船、中央下の小船と釣り人の姿が踏襲されているが、本作品ではさらに河岸のラインが強調され、画面中央に視点が集まるように洗濯船や土手の手すりなどの輪郭線がひかれている。実在した「ムーラン・ダルフォール」は、河岸からは幾分離れた整地の行き届いた一画にあったことから、ルソーはこの地域で印象に残った建物、洗濯船、釣り人の姿などを、水辺の緑地のなかに再構成して本構図を組み立てたようである。 河の水面は、鉛色、深緑色、清涼感のある水色などさまざまな色彩が水平に塗り重ねられており、青空を背景に湿気を含んだ積雲が雄大に漂うさまと好対照をなしている。画面の中央に帯をなす鬱蒼とした森が、ルソー流の無数の点描で静かなざわめきを呈し、ルソーがサロン・デ・ザンデパンダンの中心的存在であったスーラ、シニャックらの新印象主義とまったく無関係ではなかったことを明らかにしている。(『アンリ・ルソー:パリの空の下で』図録、2010年)