ラ・ベル・ガブリエル

作家名
モーリス・ユトリロ
制作年
1912年
技法・素材
油彩/厚紙
サイズ
74.7 x 104.5 cm

モーリス・ユトリロ 《ラ・ベル・ガブリエル》 1912年

作品解説

雪のモンマルトルの路地に、風雪にさらされた漆喰の壁が切り立っている。幾度も塗り重ねられて不規則な表情をみせる壁や、湿り気をおびて緑の黴が侵食する壁が、巧みに描き分けられている。左側の壁の前に立つ人物は右方へと矢印を書き込み、こう記している。
「正面にあるのは、私の人生の最良の思い出だ。モーリス・ユトリロ 1912年10月」(“En face est le meilleur souvenir de ma vie. /Maurice Utrillo. /octobre 1912.”)
 体をしならせて壁に向う姿はまだ少年のようであるが、画家自身の後ろ姿である。正面にある店は、モン=スニ通り33番地にあった居酒屋「ラ・ベル・ガブリエル」(美しきガブリエル)である。画家は20代の頃、この店の女将マリ・ヴィジエに夢中になっていた。アルコールによる失態でユトリロはしばしば巡査に連行されるのだが、避難場所は、彼女が店先で酔いどれたちを迎えるこの場所だけであった。壁にはほかにも落書き風に鉛筆で書き込まれた文字や、恋の成就を願うハートのマークも見られる。「モーリスはガブリエルを愛してる」。飲み友達の諷刺漫画家ジュール・ドパキの名前もある。「ルイーズはドパキが好き」。本作品は、ユトリロ絵画の最良の時代といわれる「白の時代」の代表作であり、また画家とその仲間たちがモンマルトルを生きた記録の集大成なのである。