『哲学者の錬金術』

  • 作家名 サルバドール・ダリ
  • 制作年 1976年
  • 技法・素材 ドライポイント、エッチング、リトグラフ、シルクスクリーン/羊皮
  • サイズ 77.5 x 57.5 cm (不定形)
著作権有効作品のため、画像を表示していません。画像は『ドガ、ダリ、シャガールのバレエ』展図録(p. 92-97、cat. 36)をご覧ください。 1976年、ダリは錬金術をテーマに10枚の版画と、パリ国立図書館などが所蔵する古文書や写本の錬金術に関する記述のファクシミリを貼り付け、仏訳と英訳を記載した2冊の本を、2巻の大型の本をかたどった箱に収めた豪華な版画集のセットとして発表した。版画は羊皮紙に刷られ、部分的にエッチング、その他さまざまな技法が用いられており、各作品には1つから4つまでの緑、赤、紫、水色などの貴石が貼り付けられている。  ダリが抜粋した錬金術に関する古文書や写本は、ギリシアをふくむヨーロッパ、中国、インド、中東など、幅広い地域のものであり、時代も2世紀から17世紀のアイザック・ニュートンの記述までが集成されている。版画のテーマには、その内容と関連するものが見受けられる。錬金術は、物質をより完全な存在に作り変える賢者の石を生み出す技術であり、卑金属を貴金属に変えることができる技術、あるいは人間の不老不死を得る霊薬「エリクサー」を作る技術とされる。そのため、錬金術は神が世界を創造した過程を再現する偉大な技術であるとも解釈され、宗教や神秘思想に接近していった。また、錬金術はフリーメーソンの思想にも取り入れられており、ダリも強い興味と深い知識をもっていた。また、彼の著書や発言の中でも「錬金術」という言葉が「芸術家の眼」の作用などの喩えとしてたびたび登場する。《エメラルドの陰刻板》は、錬金術の基本思想「ヘルメス文書」が記された板のことである。その著書や発見などについては諸説あるが、その内容は13世紀にアラビア語からラテン語に翻訳された。今ではこの陰刻板原本は存在せず、中世の写本で伝わっているもののみである。また《ウロボロス》は、「尾をかむ蛇」という古代象徴のひとつであり、世界創造が全てであり、ひとつのであるという思想、始まりと終わりが同一の円運動、永劫回帰や、陰陽思想などを意味している。しかしダリの版画では、象徴性を断ち切るかのように蛇は切り刻まれており、彼独自の解釈を表現している。(『ドガ、ダリ、シャガールのバレエ』図録、2006)