12月2日(月)~13日(金)まで臨時休館いたします
りんごを抱え、両足を広げて床に座り込んだ少女の周りには、洋梨、葡萄、西瓜、無花果といったさまざまな果物が所せましと並べてある。少女が座っている市松模様の床は、ヨハネス・フェルメールやピーテル・デ・ホーホら17世紀オランダの画家たちが室内画のなかに好んで描いた白と黒の床に類似している。一見すると少女と果物を主題とした室内画のようにみえるが、彼女の背後に目を向けると、果樹の枝越しに穏やかな空が広がっている。つまり画面の上下で、ふたつの異なる空間が描かれているのだ。 フジタは1963年から1964年にかけて、果物を主題とし、その背景に空を描いた静物画を幾度となく制作した。油彩による果実の透明感あふれる表現や、一度塗った絵具をパレットナイフの先端で引っ掻いて表わした枝や葉脈からは、最晩年になっても衰えを知らないフジタの卓越した描写力が見てとれる。彼の描く果物は、どれもみずみずしさにあふれている。フジタは1961年には、夫人とともにパリ市内からパリ郊外の村ヴィリエ=ル=バクルに移り住み、誰にも邪魔されない静かな暮らしをはじめた。商店もカフェもないこの村では、自然の恵みである新鮮な果物は生活の糧であるばかりでなく、眼を楽しませ心を豊かにしてくれる糧でもあった。その生に対する悦びが果物と少女を描いた本作品にも表われている。