ゲストリレーション・ミュージアムショップスタッフ募集のお知らせ【パート・アルバイト】
廃墟はルソー作品にはほとんど類例がない主題である。遠近法に基づいた城門から壁が連なる端正な構図もルソー特有の画法とは異なることから、既存の版画などを手本に自宅で丹念に仕上げた作品であると考えられる。
ルソーは打ち崩れた廃墟のシルエットと、背景に重ねられた雲、そして木立の葉群というそれぞれ不定形なシルエットを見事に呼応させている。その絵画技法は、画家がルーヴル美術館に通いながら、オランダ17世紀の風景画や、その影響下で成熟した19世紀のフランス絵画を深く理解していたことを明らかにしている。教会のある集落の内外をつなぐ門に向かって市民が往来する街道風景は、パリ市の周辺部で慎ましやかな生活を送るルソーの絵画の顧客層に、共感と親しみの念を抱かせるフランスの伝統的な画題でもあった。ルソーを崇拝した岡鹿之助も、本作品と肩を並べるような、愛らしい街道の風景画《礼拝堂》(1937年、cat.45)を手がけている。
(『アンリ・ルソー:パリの空の下で』図録、2010年)