飛行船「レピュブリック号」とライト飛行機のある風景

  • 作家名 アンリ・ルソー
  • 制作年 1909年
  • 技法・素材 油彩/カンヴァス
  • サイズ 59.8 x 73.1 cm
河岸の緑地で釣りに散歩、ピクニックなど、自由気ままに楽しむ市民たち。その背景にはルソー特有の樹木のカーテンが茜色に色づき空にやわらかくとけ込んでいる。ルソーが描いたこの行楽地はパリの東を流れるセーヌ河の支流であるマルヌ河の岸辺であり、ルソーは本作品において、その流れの湾曲部を大胆に切り取っている。マルヌ河のピクニック風景といえば、写真家アンリ・カルティエ=ブレッソンがこの河の岸辺でくつろぐ労働者階級の一団を被写体に収めた1938年のモノクローム写真が知られているが、ルソーはすでに約30年前に、このパリ近郊の「20世紀的風景」を見出してあざやかに画布に描きとめた。 のどかな余暇の風景の上空を見上げると、飛行船と飛行機が雲のごとく浮んでいる。飛行船「レピュブリック号」は右方向に、ライト型飛行機は左方向に、進行方向が交差するように配置されている。《エッフェル塔とトロカデロ宮殿》(1896-1898年、cat.6)で、新旧一対の記念建造物が並置されていたのと同様に、本作品でもルソーは最新型の飛行機と、一世代前の航空テクノロジーを代表する飛行船を象徴的に並べている。画家が捉えたライト型飛行機の雄姿は、ルソー研究者アンリ・セルティニにより、「大飛行機週間」を報じる『ル・プティ・ジュルナル 挿絵入り増刊号』(1909年9月5日付981号)の表紙画に描かれた車輪付きのライト型飛行機を参照したことが明らかになっている。また、フランス軍の飛行船であるレピュブリック号は、1909年9月25日に事故で墜落しており、1909年の9月に新聞各紙が飛行機と飛行船の話題でもちきりであった状況が、この風景画の空に鏡のごとく反映されているのである。同時代のジャーナリズムとルソーとの接点が窺える作品である。 (『アンリ・ルソー:パリの空の下で』図録、2010年)