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2019/03/19

絵の裏面に隠された制作の秘密 - ファン・ゴッホ《草むら》

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ゴッホは数点の作品で、空も地平線もない、草花のみが広がる光景を描いているが、なかでも《草むら》は、とりわけ草の茂みを大きくクローズアップして捉え、あざやかな緑、黄緑を用いて力強い線状のタッチで描いている。
このように、自然の風景の細部を見つめる観察態度には、日本美術の影響も指摘されている。

右はこの《草むら》のカンヴァスの裏面。カンヴァスの裏面には、作品の来歴を知る一端が残されているが、特にこの《草むら》には、ゴッホの他の作品から付着した絵具も見られるため、詳細な調査を行った。

カンヴァスの裏からわかる絵画の歴史

絵画のカンヴァスの裏面には、作品の所蔵者や展覧会出品歴の記録など、作品の来歴を知る手がかりになるものが残されている。特に、この《草むら》のカンヴァスには、ゴッホの他の作品から付着したであろう絵具や「Vincent」(ゴッホの名前の一部)の書き込みなど、ゴッホの制作状況がわかるより多くの手がかりが残されている点が特徴。

現存するゴッホの油彩画の多くは、「裏打ち」と呼ばれるカンヴァスの補強が施されているが、この作品にはその「裏打ち」が施されていない。「裏打ち」とは作品の損傷を防ぐために、作品の裏にさらに布を貼り付けるものだが、《草むら》のカンヴァスは、描かれた当時のままのカンヴァスが残っている、世界的に見ても珍しい例といえる。

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カンヴァス裏面の書き込みと来歴

A: 1953 - 1954年にスイスのビエンヌ市立美術館で開催された展覧会で出品されたことを示すラベル。
B: 「このフィンセント・ファン・ゴッホの作品は、1923年にアムステルダムでファン・ゴッホ=ボンゲル夫人(ゴッホの弟テオの妻ヨハンナ)から購入した」という書き込み。
C: 「エリザベト・フォン・デア・シューレンブルク、旧姓シャウマン」の書き込み。
*エリザベト・フォン・デア・シューレンブルク(1893 - ?)は、作家ゲブハルト・ヴェルナー・フォン・デア・シェーレンブルク(1881 - 1958)と1921年に結婚した2番目の妻であった女性。
D: 「ロレンツ・レア」の書き込み。
*ロレンツ・レア(1889 - 1959)は、スイス人のチェロ奏者の名前。彼がこの作品の所有者であったかは定かではない。
E: 最初にゴッホの全作品集を編集したジャコブ・バート・ド・ラ・ファイユのカタログ・レゾネ番号。
F: タンハウザー・ギャラリーのラベル。
*エリザベトの夫ゲブハルトが1931 - 1933年にこの作品の販売を委託していたころのものと推測される。その後の販売の記録を辿ることはできない。

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作品の裏面には、黄色いたんぽぽが群生しているような、丸い形状の黄色い絵具と縦長の形状の緑色の絵具が付着している。ゴッホが同時期に描いた他の作品の一部と考えられる。

ゴッホが制作した絵画を木枠から外して保管し、時には何枚も重ねたり丸めたりして輸送していたことがうかがわれる。

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側面にも絵具が広がっている様子が確認でき、制作時の作品の大きさは、額に入った状態の現状の寸法より大きいことがわかる。
このことから、ゴッホが画布をピンで画板や現状よりも大きな木枠などに留めた状態で描いていたことが推測できる。

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透過光写真では、絵具やカンヴァスの厚みを確認できる。《草むら》の絵具層は全体的に薄いが、ところどころ厚く塗り重ねられている。

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