食道楽

作家名
ラウル・デュフィ
制作年
1950年
技法・素材
水彩/紙
サイズ
50.0 x 92.7 cm

ラウル・デュフィ 《食道楽》 1950年

作品解説

デュフィは英仏海峡に臨む港町ル・アーヴルに、裕福ではないが音楽好きの一家の次男として生まれた。ル・アーヴルの市立美術学校に学び、ついでパリの国立美術学校に入学した後、印象派にならい故郷ノルマンディー地方の海岸や街のにぎわいを描いた。1905年にマティスの作品に衝撃を受けてフォーヴィスムへと転じ、さらにブラックとともにキュビスムへ向かう。1910年代から絵画制作だけではなく装飾美術にも携わることで、リズミカルな線表現と奔放な色彩感覚を確立していく。優雅で陽気な生活や地中海の輝き、生の喜びをテーマにして、版画、挿絵、壁画制作へと活動の場をひろげた。
 重い多発性関節炎に悩まされた晩年のデュフィは、1950年、治療の目的で1年間アメリカに滞在する。画家はこのあいだに、フランスの劇作家ジャン・アヌイの『城への招待』をもとにした瀟洒な恋愛喜劇『月の暈』の背景画を制作しており、本作品はその習作のひとつである。デュフィは、数多くの舞台装飾を手がけ、最後の舞台装飾の仕事となるこの作品にもみずみずしい感覚で取り組んでいる。
 本作品には、バラ色を基調とした左右の幕の部分は彩色された後に貼り付けられているが、その制作方法は、同時期にマティスが取り組んだ切り紙絵を想起させる。また、最晩年のデュフィの作品に関しては、色彩が単一になることが指摘されている。中央にひろがる青、白、茶の単一の薄塗りは、流麗に響きあう交響楽のような色彩の効果を生んでいる。
 色とりどりのドレスに盛装した招待客、前景に配された給仕たちの描写には、デュフィの軽妙な線の闊達ぶりがうかがわれる。これらの食道楽に興じる人物たちは、彼が好んだ主題であるオーケストラとその指揮者になぞらえることができるであろう。「色彩の魔術師」と称されたデュフィは、甘美な舞台の幕開けを指揮しているのだ。