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箱根は仙石原。ヒメシャラ街道と呼ばれる県道から40mほど控えたところに、そのヴォリュームのほとんどを地下に埋没させてポーラ美術館は佇んでいます。建築設計は、まず広大な敷地内の動植物や地形、水流などに関する詳細な調査から始まりました。その結果、沢や谷を避け、本来この土地が有していた植物生態系を損なうことなく、自然への影響が最も少ない配置計画としたのです。
建物は、地上部分の高さを8mに抑えて木々の間に隠れるよう配慮しました。それはゆるやかな傾斜地に直径74mの巨大な円形壕を掘り、そこに免震ゴムを設置して建物を載せるという手法で実現しました。円形壕は地下の水脈を守り、また土の圧力に対する安全性を確保します。完全免震構造によって建築を円形壕から浮かせることで、人と美術品を地震や高湿度から守り、また将来にわたって建物のすべての部位にアクセスすることが可能な永久メンテナンス建築を目指しました。こうした構造上の決定および交換可能な材料の選択によって、寿命の長い建物を誕生させたのです。また自然保護の観点から、工事段階においても現場での廃材発生を極力抑えるために全体構造を鉄骨造とし、自然景観との調和を図って杉板型枠のプレキャストコンクリートなどの工場生産品を多用しました。
ヒメシャラの森の中に渡された細く長いアプローチブリッジから、最上階にあるガラス張りのエントランスホールへと導かれます。館内に足を踏み入れると、大きなガラス面を通して左手に雄大な小塚山の風景が開け、さらに地下2階まで吹き抜けたアトリウムロビーを一望できます。初めて訪れた人にも、ひと目で美術館全体の構成が把握できるようになっています。
エスカレータを降りた1階ロビーフロアには、チケットカウンターのほかにミュージアムショップや森に臨むレストランがあります。展示室は、地下1階に企画展示室、地下2階に当館のコレクションを展示する絵画、ガラス工芸、化粧道具、東洋陶磁の展示室を4室、ロビー空間を取り囲んでゆったりと配置し、来館者が迷うことなく館内を回遊できるように計画しました。建物平面を十字形にしてロビーを中心に据え、展示室や諸室がそれを取り囲む単純で明快な構成となっているのです。また四隅に配した三角形のデッキは、各階から直接外部に避難できるようになっており、空調や排煙の設備スペースとして有効に利用されています。
地下2階から地上2階まで美術館の中心を貫いたアトリウムは、トップライトから自然光が降り注ぎ、南側の壁一面に高さ20mの光壁がそびえ立って、光に優しく包み込まれるような心地よい空間です。この巨大な光壁は、太陽が1日の動きにより光の射し込み方を変化させるに従って、微妙に表情を変えてゆく巨大なスクリーンです。外から運び込まれてくるのは、光のシャワーだけではありません。森の緑、空の青、風にそよぐ木の葉の影など、館内に居ながらにして自然との一体感が感じられます。ロビーの奥にあるカフェの背後にも自然林の緑が控えていて、ここでもまた美術館自体が箱根の豊かな自然に抱かれていることを体感することとなるでしょう。日中、陽の光を受け止め折々の表情を見せていた光壁は、内蔵された光のチューブが点灯する薄暮の頃から徐々に、天に向かって伸びる竹が林立するかのように、自ら光を放つ発光体と化していきます。
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当美術館は、展示の照明計画にも力を注ぎました。従来は相反する問題とされてきた美術作品の「展示」と「保存」の光環境を最大限に整えるべく、照明デザイナーが全展示室の光をデザインしています。印象派絵画を中心とするコレクションを最も美しく見せる光を模索するうち、それは「7月のパリの夕暮れ」の光に近いものとわかり、色温度を決定いたしました。また今回採用した光ファイバー照明は、光源器具と照射面をガラス質の光ファイバーによって分離することで、器具の姿の隠蔽、作品に対する熱影響の最小化、光の質のコントロール、安全な位置で球替を可能にするメンテナンス性の向上など、さまざまなメリットがあります。室内全体に明るい雰囲気と奥行きをつくり出す展示壁面上部の蛍光灯アッパーライトによる間接照明と、作品を鑑賞するための光ファイバー照明で構成し、きめ細かな調光による制御で自由な照明計画に対応できるようになっています。すべての光ファイバー照明機器と特殊光源器が当館のために新たに設計・開発され、他に類を見ない展示環境を実現しました。
展示ケースも気密性を重視したもので、天井からケース全体を照らし、またケースに設けられたスリットを通して下方からも柔らかな光を当てています。光ファイバー照明によってケース内の作品への熱負荷の影響を最小限に留め、展示作品にやさしい照明計画としました。
ポーラ美術館は、このようにさまざまな創意工夫を重ねながら開館の運びとなりました。今後は、時代の最新テクノロジー技術を投入して新鮮な印象を保ちながらも、年月を経るごとに味わいを増し、落ち着いた佇まいを呈していくことを願っています。
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